2008年6月12日木曜日

遠きに目ありて


遠きに目ありて(天藤 真 著 創元推理文庫)

 昨年の「このミステリーがすごい」で1位になった「ウォッチメーカー」の探偵リンカーン・ライムは、いわゆる「安楽椅子探偵」としての近年の代表格であるが、古典的に有名な安楽椅子探偵は、オルツィの「隅の老人」であろうか。

 日本にも、安楽椅子探偵と言われるような探偵は、高名な「退職刑事」など何人かはおられるみたいですが、私はあまり知らない。

 この全5話の短編集「遠きに目ありて」に登場する探偵役、岩井信一君は、「重度の脳性マヒであったため、ほとんど全身の自由がきかず、言葉ももつれて慣れない者には聞き取りにくい。(文庫12ページ)」障害者の少年である。知り合いの警部から捜査の概要を聞いて、難しい事件を見事に解決に導くというもので、著者の傑作と言われている。

 どこかすっきりとは納得がいかない判りにくい部分も多いと思うけれど、確かによく書かれているし、特に第5話は、凝っている。

 それよりも、この小説が書かれたのが、約30年前1970年代である。ユニバーサル社会の認識が浸透しつつあるこの頃とは違って、まだまだ障害者の外出さえかなりの困難があった時に、この小説が書かれたことの意義は大きいのではないだろうか。

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